トンネル開通

TypeEpochYear2023MemberHaruma Kikuchi, Shotaro Yagi

2023年、Project Sprint Questにおいて、理論研究を担っていたExpansiveと、プロトタイピングを通じた探求を重ねていたProject Sprint Labという、一見すると全く異なる領域を扱っている両者が、Questとして再出発して議論を重ねるうちに、奇しくも共通言語を得るという出来事があった。これはProject Theory Probeの創刊を確信させた出来事として、「トンネル開通」と呼ばれている。

この時期、理論研究は「実践」を単位とした探求を推し進めて、ジョージ・スペンサー・ブラウンや大澤真幸の「指し示す(call)」という動詞に焦点が当たるようになった一方で、プロトタイプ開発の現場でも、UIや名指され方を通じて人々の主観がどのように共有されていくかが観察されていた。議論を重ねるうちに、 方法論の違いよりも、その背景にある「何をどう名指すか」という認知の枠組みの方が、実践の振る舞いや判断基準を大きく左右していることに気づいた。

当時議論されていた「ツリーシェイク」はまさにこれを象徴する分析である。PMBOKやScrumといった方法論を、あえて認知の違いとして捉えることにより、各々が用いている用語がどのような認知を強調しているかを確認することによって、実践の違いに焦点を当てずとも方法論を比較しながら、その可能性と限界を議論することができていた。この「認知」の視点と「名指し」という実践に着目する視座は、実践的(pragmatic)なナレッジあるいは真理(truth)を積み重ねる学術的な方向性と反して、むしろそれらが依拠している「認知」を問い直す方向性へと追い風を与えることとなった。

この「トンネル開通」により、Project Theory Probeは認知を「問い直す」場として、単に学際的な位置付けに留まらず、実践者、活動家、あるいはアーティストなど幅広いメンバーが等しく参画できる基盤を得た。また、「認知」がどのように作られて、操作され、広まるのかは、プロジェクトにとって、ひいては人がどのように協働しているのかという問いにとって中心的でありながら、その探査の地平は限りなく広がっている。Project Theory Probeは「トンネル開通」で見えたこうした地平を目指して出発したのである。