Zipadee

TypeProjectYear2020-2024MemberKentaro Yoshioka, Shotaro Yagi, Satoshi Ishii, Ei Nakagawa

Zipadeeは、不確実性や複雑性の高いプロジェクトにおいて、チーム内の認識の齟齬や心理的な状態を短時間で可視化し、改善につなげることを目的としたツールである。2020年夏に構想が議論され、2024年春まで開発と探求が繰り返された。Zipadeeはヴィゴツキーの最近接発達領域(ZPD)ディズニーの愉快な歌(Zip-A-Dee-Doo-Dah)を文字って命名された。

従来の振り返りが発言者の主観やその場の空気に左右されやすいのに対し、月に一度10分程度のアンケートで心理的安全性やエンゲージメント、役割の明確さ、シェアドリーダーシップなどを定量化し、その結果をもとにチーム全員で議論することを可能としていた。研究データの収集も兼ねていたこともあり、質問項目は自律的なチーム構築に関わる約80問により構成されていた。集まったデータは論文としてプロジェクトマネジメント学会で発表されている。

ツールとしては、当初から納得感のある計測と結果を返すことに関しては有効に機能していたものの、継続的にチームが利用する必然性のあるツールには成り切らなかった。そこで、2023年春の「合宿」での議論を経てツールの価値を「チームメンバーの認識のズレを可視化すること」であると再定義して大きくピボットすることとなった。これにより、Zipadeeは単なる絶対主義的なアセスメントツールから、チームメンバーの認識のズレを炙り出し、話し合うことで状況理解を揃えるような相対主義的な対話ツールへと変化した。

これにより、継続的な利用価値を得たのだが、多忙なメンバーが対話自体に大きな価値を見出すことは少なく、仮説とプロジェクト再開の可能性を残したまま、商品化は断念された。一方で、改善に向けた「ふりかえり」の手前に、認識を擦り合わせる「アライメント」という別種の実践があり得るということ、その有効性の検証ができたことは収穫であった。こうした実践は、その後コパイロツトで標準的となりつつある「期待値セッション」「テンショントリアージ」に通ずるものであり、Zipadeeの残した奇跡は、そうした認識を合わせる実践の射程の広さと課題(習慣化)を明確化してくれている。

Zipadee論文 アライメント