「出力」的転回

TypeEpochYear2022-2023MemberMotoi Sadakane, Kokoro Kagawa

「チーム」的転回ののち、プロジェクトを成果から逆算するのではなく、小さな出力(作成物)を継続的に生み出しながら進化させていく実践へと重心が移った。これは「プロジェクトとは何か」という問いに対して、成果ではなく出力(output)という実践こそが中心であるという新たな認識への転回であり、Project Sprint v3.0からv4.0へのアップデートの背景となっている。

そもそも「チーム」的転回が、プロジェクトの目的や方向性が途中で変わるという事態に対する応答であることを踏まえれば、目的や方向性に紐づく「成果」が問い直されることは自然な成り行きだろう。

この時期、プロジェクトの現場では「成果に結びつかなくても、意味のある出力がある」という実感が共有されはじめていた。先のことを予測してから動くのではなく、まず動けることから始めてみる。その小さな出力が、後から意味や価値を帯びてくるというケースは多い。むしろ不確実なプロジェクトにおいてはそのようなエフェクチュエーション的な動きが大半である時期さえある。

さらに、チームが「自律的」であると言うためには、メンバーの行為(およびその結果としての作成物)と成果との対応関係を柔軟に再定義できる枠組みが必要であった。すなわち、作成物と成果の関係性を曖昧にしたまま、複雑・不確実な環境へ適応するモデルが求められていたのである。

「出力」的転回は、これらような実践的・理論的な要請への応答である。この転回において「出力」される作成物と成果物が分けて語られることによって、前者に関わるのボトムアップ的でフォアキャスト的な活動と、後者に関わるのトップダウン的でバックキャスト的な活動を同じ俎上で対等に取り扱うことができるようになった。また、成果との1対1対応に縛られない価値生成を可能とすることで、チームメンバー全員が価値生成の当事者であるという意識(「チーム」的転回)と、メンバーの活動の自律性がより強調された。そして、成果と出力をつなぐ仕組みとして、Project Sprint v4.0では「プロジェクトストーリー」「フラッグ」というチームの柔軟な共通認識の形成を支える構造が導入されている。

これは、小さく検証可能な作成物の「出力」にプロジェクトを基礎づけることにより、予測型・適応型プロジェクト双方に対応しつつ、メンバーが自律的に動けるモデルとして「チーム」的転回をさらに推し進めたというだけではない。出力に基づいて次のアクションを決めるという所作は、より広い解釈が許されるのであれば、作成「物」をアクターとしてみなしている態度である。つまり、現代哲学の潮流である「新しい物質主義」との邂逅であるとも言えるだろう。