「学生向けキックオフ資料」は、叡啓大学の学生実証プロジェクトの開始時に、学生へ向けてプロジェクトの捉え方と進め方を共有する説明資料である。本資料は、環境が変わり続けるなかで目的も変わり続けるという前提から始まり、プロジェクトを外から予測・観察できるものとみなす「実証主義」から、メンバーのものとして捉える「相対主義」へと視点を移すことを強調する。カール・ワイクのセンスメイキング(納得は自らの実践からつくられる)を軸に、Project Sprintが前提とする捉え方を学生と共有することを目的としている。
進め方の鍵は「共感」である。個人の目的とプロジェクトの目的が重なるほど、メンバーは受け身の「対応」ではなく自律的な「応答」で動けるようになり、そのためにフィールドワーク(調査・観察)が要る。成功したプロジェクトの要素として、全員が面白がり、それぞれの個性と能力を発揮し、失敗という概念のない心理的安全のある状態、すなわち「共愉(コンヴィヴィアリティ)」が挙げられている。
プロジェクトに向き合う態度として強調されるのがみんな化である。資料はジャズトリオ The Comet Is Coming の即興をヒントに、互いの出力を聞き、未知を受け入れて応答し合う姿勢を掲げ、各メンバーが「確信」と「主張」を伴う出力を持ち寄ることを大前提に置く。これはProject Sprint v5が核とした即興とも重なっている。助言についても、問題を指摘して標準に合わせる「修正的助言」ではなく、良いところを見つけて実力を延ばす「卓越的助言」を基本とする。さらに、リーダーを固定せず状況に応じて各メンバーが影響力を発揮する「シェアド・リーダーシップ」も前提に据えられている。資料はほかにも、PMBOK的なプロジェクト観との対比、「収穫祭」と呼ぶ定例会議、個人ワークの重要性(濱口秀司の積み木実験)、付箋・カードの書き方、参照元としてのProject SprintとSuperGoodMeetingsまで、幅広い論点を扱う。
学生には、まず成果物をつくって「モヤモヤ(疑問)」を見つけ、とにかくやってみて対話することを促す。本資料に書かれたことは開始時には腑に落ちず、体験を経てはじめて理解に至るものが多い。共創プロジェクトにおいては活動が進む中で「あの時のこれはこういうことだった」と体験学習する際の資料として活用されている。