野中ショック

TypeEpochYear2018MemberMotoi Sadakane, Satoshi Takahashi, Tomohiro Yoneyama, Kentaro Yoshioka, Shotaro Yagi

当時のナレッジマネジメントオフィス(KMO)は、野中郁次郎の知識創造理論を主要なフレームワークとして位置づけ、ナレッジメソッドサイクルと呼ばれる独自のプロセスを設計・運用していた。このサイクルは、現場の実践知を収集・整理し、それを概念化・ツール化することで再利用可能な形式知へと昇華させ、再び現場へと還元することを目的としていた。そして、今日のコパイロツトを象徴するプロジェクト推進の方法論「Project Sprint」も、まさにこのサイクルの中から生まれた成果の一つだ。

こうした野中郁次郎からの影響の中でも特に「野中ショック」とも呼ばれるのは、2018年にナレッジマネジメント学会年次大会における野中郁次郎先生の講演を聴講した出来事のことである。当時、私たちはナレッジを形式的なものとして扱っていたが、野中郁次郎は基調講演において、現象学的アプローチを引き合いに出しつつ、知を「相互主観的なプロセス」として捉える視点を提示した。これは、KMOチームのメンバーも自身のナレッジマネジメント活動を通じて直面していた「伝わらなさ」が、説明されたと感じる瞬間でもあった。

野中先生自身もこの時期、過去の理論への批判的検討を受け止めながら、知識創造理論を相互主観性や場の理論といった新たな理解へと更新していた。この「野中ショック」を機に、SECIモデルを超えた野中郁次郎の理論を追う動きが活性化した。この頃はKJ法を探求していた時期でもあり、身体知も含めた暗黙知の再評価、そして客観と主観の二項動態に着目するようになっていった。さらにはコパイロツトが企業としてイノベーションを起こしてきた背景にあったのが正にナレッジマネジメントであったという自覚へとつながった。当時、KMOの役割を見直していた動きと相まって、KMOはKLへと名を変えて自社で「知を蓄積する役割」から、他社を含めて「知が生成され続ける場を設計する役割」へと転換していった。